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概要

広報霧島2015年8月号

閑静な住宅地に建つギャラリー「ナチュラルライフMOMO」。そこで県内外の作家による陶器や木工作品などの美しい作品に囲まれながら、作品の創作や企画展を行うのは平たいら千ち賀か子こさん(66)。平さんが美しいものに興味を持ち始めたのは小学校に入るころです。着物を着た母親の羽織を羽織ったとき背中のお太鼓によってできる曲線。その羽織が作り出す線の美しさに魅せられ「美しい線とは何か」という疑問に興味が高まります。そこから美しいものを求め、子どもの頃はお小遣いで器を買い、社会人になっても絵画や芸術作品を追い求めるようになります。会社員として働いた20代のころは、仕事も順調で充実した日々を送ります。しかし日々の生活の中で、自分の中の気持ちに満たされない何かがあると感じ始め、会社を辞め一念発起し自身のギャラリーを開きます。最初は鹿児島市、次に霧島市の商業施設、そして現在自宅でギャラリーを営み、多くの作品と向き合いながら「美しい線とは何か」という疑問の答えを探求し続けています。平さんは自身の創作活動もギャラリーで行います。長年にわたり手掛けるのがちりめんの生地で作る人形で「祖母は裁縫の傍ら、私に端切れで人形を作ってくれました。それがうれしくて、小学校に入る前から人形を作っていました」と振り返ります。ちりめんに出会ったのも、そんな祖母がきっかけでした。二十歳を控えたころ、「これから人さまのところに出掛けることもあるでしょう」と言って作ってくれた、きれいな模様の赤いちりめんの「ふくさ」。今も大切に使っているふくさが最初のちりめん生地との出会いでした。ギャラリーを営むようになった30代で再びちりめん生地に出会い、ちりめん人形の制作を始めました。「ちりめんは、江戸や明治時代の古い物ほどフワッっとして軟らかいんです。家庭の中で着物として母から娘、娘から孫、そしてほかの誰かの手に渡り、傷んでくると襦じゅ袢ばんにし、次に半はん襟えりとなって小さくなっていく。そうやって繰り返し人が袖を通し、洗濯することでちりめんの物語が紡がれます。そのちりめんが最後に私のところにたどり着き、ちりめん人形になっています」と、いとおしそうに話します。生活の中で永く使われることで趣おもむきを増してきたちりめんの生地には、簡単に作り出せない人々の文化が詰まっています。「人が美しいと感じる物は、暮らしの中にたくさんあります。そのベースにはその人や家の文化、家庭で代々引き継がれる文化があり、その生活に溶け込んだ文化が作り出す美しさは人の心を引き付けます」そんな魅力的な作品の並ぶ平さんのギャラリーが創り出す空間には多くの人が集い、創作以外にもボランティアや地域活動などを語らいます。「美しい物を求めながらわくわくすることや好きなことを仕事として今にたどり着きました。時代の流れに沿う必要はないんじゃないかな。自分の流れは作ればいい」自分の中で「美しい」とは何か。なぜ美しいと感じたのか。それを日々追求し、「美しい線とは何か」との問いに始まった疑問は線となり、平さんの生活と文化を織り成しています。暮らしの中に溶け込んでいく文化THE SCENE Vol.102霧島に生きる広報きりしま 16s l o w l i f e