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更新日:2021年10月25日
今は、昔、この池のふもとの村に庄屋がありました。村一番の金持ちで、何一つ不足はありませんでしたが、ただ一つこの年になるまで子宝のないのが寂しい限りでした。そこで、年寄った夫婦は相談してお山の神様に願をかけました。まもなく妻はみごもり、やがて美しい女の子を産みました。夫婦は、目の中に入れても痛くないほど、蝶よ花よとかわいがって育てました。そして、その名もやさしくお浪とつけました。お浪は、きりょうも心も清らかに美しく、だれよりも人にかわいがられ、日毎にその美しさを増していきました。村の人々は、女神様の生まれ変わりだとさえ語り合いました。しとやかなお浪の動作は、まるで姫君のようでした。お浪の十八の春が来ました。美しい気立てのやさしいお浪には、あちらからも、こちらからも結婚の申し込みがありました。ところが、肝心のお浪はどうしたことか、結婚の話を両親から聞かされるごとに、ただ寂しくほほえむばかりでした。両親の心遣いを見るにつけ、お浪は泣くよりほかにありませんでした。お浪はとうとう寂しい沈んだ乙女になってしまいました。
お浪はとうとう病気になってしまいました。庄屋夫婦は、狂気のようになって医者よ薬よと騒ぎましたが、効果はありませんでした。お浪の美しかったほおの肉は落ちて見る影もなくやつれていました。そして、ある夜、それは霧島の森林に月がこうこうと照っている夜更けでした。
「山の奥へ行ってみたい」
庄屋は、思いとどまるように言い聞かせましたが、お浪はどうしても聞き入れませんでした。しばらくして黒い影が二つ、山を登っていきました。かすかな足音が、極度にもの寂しい林の奥をさまよった後、とうとう池のほとりに来ました。
と、突然お浪の瞳は輝きました。そして父親の手を振り切るが早いか、ザブンとばかり池の中に飛び込みました。あわれ、後にはかすかに小波が残るばかり・・・。青黒い水は何事もなかったかのようにもとの静寂にもどりました。ハッと我に返った庄屋は娘がいないことに気がつきました。庄屋は気が狂いました。「お浪ー。お浪ー。」悲痛な叫び声が林にこだまするのみでした。庄屋は夜が明け、太陽が上がるまで池のほとりを狂い歩きました。そして叫び通しました。でも、お浪は、もう二度とその美しい姿を見せませんでした。
お浪は、この池にすむ竜王の化身でした。庄屋夫婦の熱心な願いに感じて、しばらくの間庄屋の娘となっていたのでした。それから、この池を「お浪の池」と呼びました。それがいつのまにか「大浪の池」となってしまったのです。
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